第2章《都市と田園》

ルノワールは印象派を代表する画家であり、きらめく光の表現を最初になし得た画家のひとりであった。彼らの前の世代であるバルビゾン派の画家たちは、ありふれた風景の中で日々営まれる民衆の生活を屋外でデッサンしたが、ルノワールをはじめとする印象派の画家たちは、その試みをさらにおしすすめ、イーゼルを屋外に立ててその場で彩色を施した。彼らは屋外で制作することによって、従来の色や光への固定観念を越えた新しい光や空気の表現を生み出していった。しかし彼らの表現は、当初全く認められることはなく、ルノワールの肌に照り輝く光の斑紋の表現でさえ、「腐った肉体」と酷評された。

さらに彼らが厳しい批評にさらされた背景には、主題の選択ということも大きな要因となっていた。印象派やバルビゾン派の登場以前、フランス画壇ではサロンが絵画の権威であり、そこでは宗教画や神話画といった主題が正統とされ、風景画や静物画であっても構成されたアカデミックな作品が求められた。したがって、風俗画や身のまわりの景色を描いた風景画などは一段劣るものと認識されていた。ところが、ルノワールなど印象派の画家たちは、このようなアカデミックで貴族趣味的な主題ではなく、近代都市の華やぐ生活や郊外の何気ない自然や、そこでくつろぐ庶民の姿を好んで描いた。なかでもルノワールは、都市文化や郊外の娯楽を快活に楽しむ人々の姿をいきいきと描いた。それは近代の都市文化の成立によって、市民生活に新たな文化的価値が誕生したことを意味するとともに、新しい絵画の主題が到来したことをも告げていた。

ピエール=オーギュスト・ルノワール
《ボート》
1878年頃
油彩・キャンバス、54.5×65.5cm
ラングマット美術館蔵
Pierre-Auguste Renoir, La barque, Museum Langmatt, Langmatt Foundation, Sidney and Jenny Brown, Baden, Switzerland
ピエール=オーギュスト・ルノワール
《小さな桟敷席》
1873-74年頃
油彩・キャンバス、27×20.7cm
ラングマット美術館蔵
Pierre-Auguste Renoir, La petite Loge, Museum Langmatt, Langmatt Foundation, Sidney and Jenny Brown, Baden, Switzerland

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