第3章《女性像》

ルノワールが最も多く描いた主題は、まちがいなく少女や女性像である。生涯を通して、これほど多くの女性像を描きながら、ルノワールの描く女性は常に幸福な姿で描かれている。絶望にうちひしがれたり、嘆き悲しむ姿の女性をルノワールは描かなかった。そのことによって、ルノワールが人間の内面を直視しなかったと断定することはできない。むしろルノワールの生い立ちはけっして裕福ではなかったし、画家として身を立ててからも、長い間厳しい批判にさらされ人生の悲哀を味あわされた。だからこそ、ルノワールは描く対象をできるだけ美しく、見ているものを幸福にするように描いた。人生は辛いが故に、絵は愛すべきもの、愉しく美しいものでなければならないという哲学をルノワールは確信していた。彼にとって女性を描くということは、その人間の内奥の秘密を暴くことではなく、その人間が最も美しく見える部分をより美しく表現することであった。だからルノワールにとっては、モデルが貴婦人であろうと、街の女であろうとそれは問題ではなかった。ルノワールが描く幸せそうな人々は、彼の人間への平等な眼差しに根ざしている。

さらにルノワールの描く女性には、たとえ裸婦であっても官能性をうったえてくる作品は少なく、むしろ《バレリーナ》の振り返る表情に見る少女性や、読書に耽る女性の清楚さがきわだっている。女性のこのような側面を表現し得た画家が、果たしてそれまでに何人いたであろうか。それこそが、ルノワールがいまだに愛され続ける理由であろう。

ピエール=オーギュスト・ルノワール
《バレリーナ》
1874年
142.5×94.5cm、油彩・キャンバス
ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
Pierre-Auguste Renoir, The Dancer, National Gallery of Art, Washington,
Widener Collection 1942.9.72,
Courtesy National Gallery of Art, Washington

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