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●Disc.62
「工場で野菜を作る!?」
今回は、石巻市にお住まいの匿名希望の方からの情報で「野菜を作る工場が出来たみたいなんです」と頂きました。
野菜を工場で作るって一体どういう事なんでしょう?さっそく石巻へ向かいました。
旧河南町と聞いて、国道108号線周辺で聞き込み開始。しかし、野菜を作る工場の情報を知っている人はあまりいない様子。
ガソリンスタンドの方なら詳しいかも……と尋ねると、やはりご存知でした。石巻市内の北村という場所に、探している工場があるそうです。
教えてもらった情報を頼りに車で急行すると、ついに太陽も土も使わずに野菜を作る「完全人工型」という工場を発見しました!
中は一体どうなっているのか?
工場を運営する(株)向陽アドバンスの澤口社長に許可を頂き、いよいよ潜入取材です。
驚くのは、その厳重な衛生管理。白衣にマスク、帽子を着用するのはもちろん、手をアルコール消毒し、空気でホコリを飛ばしてからようやく入室。
外からばい菌などを入れないための対策なのです。
1歩足を踏み入れると、そこは寒い外とは打って変わって温かく、湿度もある世界。しかも蛍光灯の明りがまぶしい!
21℃程度に制御された空間は、ちょうどペットショップの熱帯魚売り場に足を踏み入れたような感じがしました。
季節や気象条件などに関係なく野菜を作る事ができる工場。
およそ480平方メートルの建物では太陽光の代わりに蛍光灯を使い、去年11月から水耕栽培で2種類のレタスを育てています。
病害虫がないから完全無農薬……というのも、工場の大きな特長です。
さっそく手近にあるレタスの葉を1枚むしって食べさせて頂くと、これがまぁ何と拍子抜けするぐらい普通のレタスなんです。美味しいし、エグ味もない。
澤口社長、工場での栽培ではあってもやはりプロの農家ですね……と思っていたら何と!向陽アドバンスの本業は、断熱パネルなどを手掛ける建材メーカー。 同じ敷地内に資材工場もあります。
しかも社長自身、農業の経験はゼロ!一体なぜ、野菜作りなど始めたのでしょうか?
聞けば元々は、自社の断熱パネルの用途拡大が目的にあったそうです。
パネルを植物工場の建設に用いて栽培を軌道に乗せれば、自社製品のPRにもつながるというわけですね。
断熱パネルの新たな使い道を模索しつつ、自社製品を用いて工場の建設コストを抑える事に成功。
また、撮影の時は明りを付けて頂きましたが、普段は料金の安い夜間電力を使うなどの工夫もしています。
さらに、発電所(=女川原発)の周辺自治体に支払われる電源立地地域対策交付金を申請して、電気料金の4分の1程度の補助を受けているのです。
コストダウンの工夫を重ねたり価格を下げても、出来上がった野菜はまだ市価の2割ほど高値で、現在は一部のホテルやレストランでの取り扱いに限られるそうです。
澤口社長も、一般に流通させて行きたいと話していました。
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さて。工場で生産された野菜は、露地やハウスの野菜と同じと考えて良いのでしょうか?
食べたは食べたのですが、安全性などまったく気にならないわけではありません。東北大学大学院農学研究科の金山喜則准教授に、お話を伺いました。
まず、基本的に育てる水や養液に問題がなければ、工場で出来た野菜であっても安全性に問題が起きるような事は考えにくいそうです。
また栄養価の違いについては、通常栽培の野菜でも土や肥料、天候などによって成分は当然変わるため、一概には言えないとの事です。
次に、工場生産に適した野菜の条件を聞いてみると……。
比較的弱い光で育つ事。サイズがあまり大きくない事、栽培期間が比較的短く、かつ需要も安定している事。
レタスはすべてに当てはまりますよね!
こうした条件が揃わないと、利益を得るのは難しいそうです。
やはりコストの問題は大きいようですね。金山先生も「通常の栽培を補う形での普及なら考えられるだろう」と話していました。
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では既存の農家は、野菜を工場で作るという事をどのように感じているのでしょうか?
僕は若林区で農業を営む、遠藤耕太さんを訪ねました。
遠藤さんは30歳の若い農家。外食産業のように季節や旬を問わず野菜を欲しがるようなお客さんの事を考えると、そうした多様なニーズに応えるための工場生産があっても良いのでは、というお話でした。
「それでも、やはり旬を感じられるのは土で作った野菜です」という、農家としてのプライドもチラリ。 僕自身は、農業を盛り上げるためにどちらにも頑張って欲しい……というのが取材を終えての正直な感想でした。
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